株・師匠(プロ)の教訓 11:空売りしないと勝てません
- 2019.08.03
- 師匠(プロ)の教訓
師匠と出会って最も衝撃的だった言葉は、「空売りしないと勝てません」でした。そもそも、それまでの20年間の投資生活(ブランクも結構ありますが)では「空売り」という言葉はもちろん知っていましたが、僅かに数回しかチャレンジしたことはありませんでした。
株式投資と言えば「安く勝って高く売ってその差額が利益」という理解しかなかった・・・。それがプロ(証券ディーラー)の世界では、「買いも売りもするけれど利益は空売りで獲っている」と言うわけです。
「師匠も空売りを?」と聞くと、法人畑が長かったので「繋ぎ売り(買いに対するヘッジ売り)」ばかりだったそうですが、社内で名が上がるディーラーはみな「売り専」だったと。
こうした話は買い専門だった私にとっては衝撃だったわけですね。
師匠が語った空売りのメリット
実際に手掛けていた野村証券株をリーマンショック大底の2009年3月~4月から買いで獲ったあとの戻り天井で、「売りましょう」と空売りにゴーサインが師匠から出ました。売った直後には担がれたものの、翌日には上髭を作って下落を始めました。
このとき、「師匠は凄い人」「相場が分かる人」と勝手に崇めていました。その後機会あるごとに何度も「空売りのメリット」に関して質問したわけですが、その時の答えは次の3つに集約されていました。
分かり易さ
「相場が上がるかどうかはプロでもなかなか分からないんですよ。上がる気がする、という程度ですかね」
「そういうものですか?」
「資金が入らないと株価って上昇しないからですよ。で、資金が入るかどうかは事前に予想できませんから」
普段株式投資をしていて、それまでは「資金が入るか否か」ということを意識していなかったわけです。ところが「株は売るために買う」わけですから、みんながそう考えるとおのずと資金が集中したり偏ったりします。それを予測することが難しいのですね。
ところが、ネガティブな材料がでたり地合いが悪化したりすると、それは確実に「株価下落」の要因となるわけです。資金が入る入らないではなくて、投資家は損をしたくないから持ち株を売りたがる。
プロにとってはこれほど分かり易い相場はないのでしょうね。
勝負の速さ
「売りが売りを呼ぶ」時の下落スピードの速さは、「買いが買いを呼ぶ」時よりも速いと言われます。もちろん小型株などで寄り付かずのS高、S安などは別の話で、大型株などは概してその傾向か強いわけです。
プロは市場で相場に参加している(ポジションを建てている)ことが、リスクそのものと考えていて、短時間で勝負がつくに越したことはないわけですね。
確かに急激に需給変動する「パニック売り」と言うのはありますが「パニック買い」というのは余り聞かないですから。
投資機会の多さ
明確な上昇トレンドの場合は、基本買いで獲ることになりますが、それ以外の持ち合いトレンドと下降トレンドは空売りです。持ち合いでも勝負の速い空売りを狙いますから、空売りだけでも買い寄りは投資機会が断然多くなります。
もちろん、プロは買いも手掛けるわけで、空売りができれば常に投資機会があると言うことになります。
「証券のディーラーは毎日ポジションを持ってるわけです。ポジション外してしまったら仕事してないと見られるからですね」
そんなこともあるんだ、と感じました。
「個人はいつでも休めますけど、プロは休めないんですよ。仕事ですから」
そうした現場を経験した当事者の話はどれも説得力がありました。
相場は波風を立ててナンボの世界
もしも株式相場が堅調で動きがほとんどなかったとしたら・・・「それこそ証券会社は商売あがったりですからね。上下に大きく動けば動くほど活気が出てくるんですよ」
「下落してもですか?」
「暴落などは大歓迎ですから。今が底値といって営業する機会が増えますし、売買手数料も稼げる」
「個人とか怒りませんか?」
「それを諫めてさらに買っていただくのが商売なのです」
危機感を煽るのが基本
ある意味では危機を煽るというのは証券業界の昔からの体質というか、倣いだと師匠は言いました。
「基本的に株式市場と言うのは、変動(ボラティリティ)がなければ出来高が増えない。もっと言うと出来高が増えるためには売り物が出ることが必要なのです」
「では出来高を増やすために?」
「そう言ってしまうと身も蓋もなくなって仕舞いますが、その通りです」
出来高が増えると手数料収入が増加する。商売なのですからそれが悪いとは一概に言いきれない部分もありますね。しかし、最近では先物と連動して悪材料を出すという手口が横行していて、やり過ぎると投資家離れを生み出すことにもなりかねません。
ただし、そういう傾向が否定できないと言うことは確かでしょう。
仕手相場は下落時に儲けてた?
「面白い話を一つ」
そう言うと師匠はショートホープに火をつけました。
「今の仕手相場も変わらないと思うんだけど、昔なんか規制も厳しくなかったからいろいろな山っ気のある相場師が仕手相場やてってね・・・」
「加藤とか佐藤とかですよねぇ・・・」
「加藤暠は誠備グループで何度も捕まっちゃってるし、ブーちゃん(佐藤和三郎)は止めちゃったですよ。そんな大物じゃなくて上場企業の経営者とか結構いてね・・・」
いろいろ実名が出てきましたが差障りもあるので書けませんけど。
「仕手相場ね、ここ20年くらいは売りで獲ることが目的なんですよ。買いで獲るのは相当に難しいのがみんな分かってきて、その後は売りばかり狙ってましたよ。そうすると成功率が結構高いからですね」
最初から売りで獲ることを目標に仕掛けられたら個人に勝ち目はないですね。
徹底的に空売り修行
師匠のついた2年半の間、後半の1年間は空売り修行を徹底的にやりました。すると半年くらいすると相場の需給が見えるようになるのです。その時は本当に良く見えていたなと自分で感心するほどでした。
そしてそうなってくると上昇トレンドでも「日中の需給」で売れるように成ったんです。
時間を意識して全体の地合いを意識すると、日計りしようとする短期筋の売買が見えてきます。日中の値動きは、売買のバランスが崩れることで起こる。その理由は短期筋の売買と言うわけです。
ここ3年近く、「売り方」に転向してからは、だいぶ感覚的に当時に近付いてきていると感じます。
師匠がくれた最大の遺産
ある日、師匠の奥様から師匠が脳内出血を起こして倒れ緊急入院したと連絡を受けました。そして倒れてから僅か4日で帰らぬ人となってしまいました。
立場上指しでがましいこともできず、通夜になってから出向くと師匠の部屋で奥様に泣かれてしまいました。その後、私自身も色々あって一時は師匠の後を追おうとしたりもしましたが、奥様に言い含められたのを思い出します。
それから1年半してすべてを清算したとき、自分に何が残っているか?と考え、何がなんでも空売りで勝負できるレベルまで資金を増やそうと思いました。
幸運にも1年かかってようやく200万円の資金となってスタートしました。
空売りの技術と考え方は、師匠がくれた最大の遺産になりました。
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