FRBに対するトランプ大統領の怒り、パウエル議長解任も視野?
- 2019.08.31
- 海外情勢
ジャクソンホール・年次経済シンポジウムでFRBパウエル議長は「足元の景気拡大を維持すべく適切に対応する」と発言し、具体的な政策への言及を避けた。そして、
米中貿易戦争に起因するマイナスの影響など「著しいリスク」に直面しているとした。
貿易戦争が企業投資や信頼感への障害となり、世界経済の悪化につながったとすれば、FRBはすべてを金融政策で修正することはできないとし、「現在の状況に対する政策対応の指針となる直近の前例は存在しない」と指摘。
金融政策が「国際貿易に対して整ったルールブックを提示することなどできない」と述べた。
この発言は明らかに、FRB批判を繰り返すトランプ大統領への反論であって、「金融政策は万能でないからトランプ政策のフォローはできない」と宣言したに等しい。
FRBに対するトランプ大統領の怒り
このパウエル議長の発言に対し、トランプ大統領は
「いつものようにFRBは何もしなかった。米国はとても強いドルを持っているが、その一方で、とても弱いFRBを持っている。FRBは私が(対中貿易摩擦に関し)近く発表することが何なのか尋ねもせず、また、知ろうともしないで、(議長は講演で)話ができるなんて信じられない」
とツイートして怒りをあらわにし、
「われわれの敵はだれなのか。パウエル議長なのか、それとも中国の習近平主席なのか」
と痛烈な批判を浴びせた。
FRB失策の象徴=逆イールド
米国債金利に逆イールドが出現した。現時点(8月31日)でも3、5、7年もの国債は10年物よりも金利が低いという逆イールドが出現したまま解消されずにいる。
逆イールドは景気後退(リセッション)のサインであると言われるが、債券市場では長期的に景気不安になると、短・中期ものの債券に資金がシフトするようになる。長いレンジでは不安であるという心理がはたらく。
金融機関でも、短期借入資金を長期で運用することで利鞘を得ているわけだが、逆イールドは現状の運用が赤字(逆鞘)になる。
こうして金融がタイトになることが経済に悪影響を及ぼし、次第に景気後退となるわけで、金融政策当局は将来的な景気後退を防止するために、逆イールドの解消は不可欠となるはずだ。
にも関わらず、FRBパウエル議長は、直近のジャクソンホールでそのことに全く言及していない。それもそのはずで、今回の逆イールドは明らかにFRBの失策だからだ。
FRBは2019年3月から資産圧縮を減速し始めたが、これによって中長期国債金利は低下する。しかし政策金利の引き下げは2019年7月末であり、それまでの間、長短金利差が縮小してしまって、その結果逆イールドに転落した、というのが真相だ。
従って、利下げを先行させ、資産圧縮の減速を追従させれば、金利は正常に、しかも相対的に低下し、その結果過度なドル高を招くこともなく、為替も安定していただろう。
トランプの対中関税の効果激減
トランプ大統領にしてみれば、相対的に米国経済は堅調だが物価上昇が弱いという絶好の経済環境下で仕掛けた対中関税の引き上げだった。
確かに米国の国内経済は雇用、消費とも堅調で、低インフレ下で物価安定となれば、金融緩和をする必要がないとFRBは判断してしまう。FRBパウエル議長は過去に「リアルタイムでの(中立金利等の)指標は信頼できないので政策反映しない」ときっぱり発言していた。
つまり、物価や雇用と言った遅行指数にのみ従って金融政策を行うと言う意味だ。一方、米中貿易戦争は、ある程度時間が経つと為替変動で相殺されてしまう。現に人民元安は2018年半ばから10%以上進行し、米国が課した関税の10%を吸収してしまった。
時間の経過とともに制裁効果が薄れてしまうと、トランプ大統領は次々に関税対象を広げるか関税率を引き上げるしか手段がなくなってしまう。しかし、それをすれば米国製品もまた報復関税によって痛手を被ることになり、結局は自国経済へと跳ねかえる。
他方、中国は対米輸出で失った利益を、人民元安によって他国への輸出で補っているために、トランプ大統領の対中関税効果はほとんど失われている。
こうした現実を目の前にすると、トランプ大統領の発言はもっともだと納得がゆく。
FRBの金融政策は保身のため?
2018年の米国経済は年初からの「トランプ減税」によって好調を享受した。それを景気過熱と捉えたFRBは、2017年10月から資産圧縮を開始し、金融引き締めに転じただけでなく、計4度の利上げを同時進行させた。
しかし、2018年で物価上昇が2%を超えたのはわずかであって、3%には到底届かないという極めて安定した状況だった。雇用は2017年に増加のピークを迎えるが2018年は極めて安定的に推移していて、景気の過熱感を現したのは史上最高値を更新した株価だけだったと言える。
にもかかわらずFRBは、量的引き締めを資産売却と金利引き揚げで両面から行ったのは、明らかに「景気好調時に自らの政策バッファを確保したい」という目的だ。
金融市場が偏重をきたせば、FRBの政策余地が重要という考え方で、言ってみればFRBの保身である。
そうした経緯をトランプ大統領は苦々しく感じていただろう。そして2018年夏から開始された米中貿易戦争に際して、当然将来的な懸念材料としてFRBは捉えると計算していたはずだ。しかし、FRBは以降2度に渡って利上げを継続し、その結果年末にかけての株価大暴落を誘因させてしまった。
しかし、その時点においてもFRBは機動的な行動を取ることなく資産圧縮を経済していた。
エスカレートしてきた米中貿易戦争
トランプ大統領は、対中関税を導入してからの経緯の中で、明らかに人民元安によって関税効果が薄れていて、そのことが米国の対中要求である「知的財産権保護」および「資本の自由化」を承諾しない要因になっていると考えている。
米国のこの要求は、米国世論が一致した対中国制裁であって、どうしても中国に飲ませなければならない条件だ。しかし、そうした交渉はまったく進展せず、気がつくとファーウェイの5G支配は確定的で、中国の知的財産権侵害に対する制裁は一向に進まない。
その最大の要因がFRBの金融政策にある、とトランプ大統領は主張している。
トランプ政権は中国を「為替操作国」に認定したが、これは人民元安に対して政策的に歯止を掛けようという意図がある半面、実効性はほとんどない。
仮にFRBが大胆な金融緩和姿勢に転換することなく、現状の政策を継続するのであれば、今後人民元安に歯止めがかからなくなる可能性が非常に高まっている。
そうなると、米中貿易戦争の関税効果は完全に剥落してしまうわけだが、そのことをパウエル議長はジャクソンホールで宣言したに等しい。
人民元安はFRBの責任?
2018年、中国は通年でマネタリーベースを約4%拡大したが、一方のFRBは資産縮小で約10%縮小した。現在の人民元レートは、両国のマネタリーベースの変化を反映したものであることは明らかだ。
しかもこのまま、中国経済が減速を続けるようなことになれば、ますます人民元安は進行する。これは明らかにFRBの金融政策の視点が狭すぎて対応出来ていないという失策だ。
こうした状況下では中国に対する効果的な関税政策は、出来るはずもなく関税率の大幅な引き上げなどによってエスカレートすれば、米国経済にとって悪影響が避けられない。
従って、FRBは逆イールドを解消して将来の国内経済減速懸念を取り払うこと、人民元安を食い止めること、という両面で大胆な利下げをする必要があるというのがトランプ大統領の主張でもある。
トランプ大統領はパウエル議長を解任するか?
こうしたFRBの政策姿勢によってトランプ大統領の対中政策に選択肢は、次第に限られてきた。株式市場はトランプ発言によって、相変わらず右往左往するような展開になっているが、基本的に米中対立は時間とともに激化している。
しかし、FRBが政策姿勢を変えない限り、金融制裁等、より過激な対中政策に出るか、パウエル議長を解任するか、の二者択一である。
従って、既にほぼすべての中国製品の輸入に対し関税を賦課することを決定しているトランプ政権に残された時間は多くはないはずだ。
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