トランプツイートが示す「米中貿易戦争のさらる激化」

トランプツイートが示す「米中貿易戦争のさらる激化」

「交渉が現在の任期中に決着せず、自身が再選されることになれば「妥結はずっと困難になるだろう。中国のサプライチェーン(供給網)は崩壊し、企業や雇用、資金が奪われることになる」(9月3日トランプツイートより)

トランプ大統領の重大発言

トランプ大統領は中国が報復措置として追加関税と米国農産物輸入拒否を発表した直後の8月23日、ジャクソンホールでFRBパウエル議長講演で金融緩和に否定的であったことを批判するとともに、次のようなツイートをした。

(トランプツイート)いつも通り連銀は何もしなかった!連銀は私が何をしようとしているのか知ったり、尋ねたりしないで発表できるとは信じられない。米国は強いドルで、弱い連銀だ。私は両方に対応し、米国は良くやるだろう・・・

私の唯一の質問はどちらが強敵かということだ。ジェイ・パウエル議長か習国家主席のどちらだ?

さらに感情が高ぶったトランプ大統領は、次のような見過ごすことができない重大発言をしてしまった。

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(トランプツイート)長年の間、米国は馬鹿なことに中国に何百兆円相当も失ってきた。中国は毎年、何十兆円相当も知的財産を盗み、それを続けたいのだ。私はこれをさせない!我々は中国はいらない。はっきり言うが中国がいないほうがはるかにましだ。

膨大な資金が築かれた。そして毎年、中国はそれを米国から盗んでいった。何十年間にも渡ってだ。これを制止しなければならない。私はアメリカ企業に即座に中国以外の選択肢を探し始めるよう命令する。

それは米国企業が米国に戻り、米国内で製品を製造する事も含めてだ。中国による関税についての対応を本日午後に行う。これは米国にとって大きな機会だ。更に全運送会社、Fedex, UPS, 郵便局も含めて、中国から(他国も)のフェンタニルを捜査、拒否するよう命令する。

フェンタニルは毎年10万人のアメリカ人を殺している。習首席はこれを止めると言ったが、そうしてない。この2年半、米国の経済は中国よりはるかに成長している。我れ我はこれを維持するのだ!

この日のツイートには、今後の対中政策を想定するために極めて重要な3つのセンテンスを含んでいる。そして既に3つのうちの1つは、9月1日から施行された関税に関し10%から15%に引き上げ、12月15日から賦課予定の関税も同様に引き上げた事によって実行された。

しかしこれは、米中両国の経済に影響を及ぼすものの、従来からの貿易戦争の延長上であって、トランプ大統領が再三にわたってFRB批判を繰り返した根拠に過ぎない。

すなわち、いくら関税を引き上げてもドル高ー人民元安で相殺されてしまうという主張の根拠だった。

しかし後の2つは現時点では具体的には分からないが、今後の対中政策の重大なヒントになると考えられるだけでなく、これまでのトランプツイートの中でも最も鮮烈なものだった。

これに対し米国メディアは「大統領にそんな権限があるのか?」と一斉に反発したが、そうした批判に対し、トランプ大統領は「フェイクニュースだ」としてその根拠を次のように説明した。

(トランプツイート)フェイクニュースは大統領の持つ法的権利を全く理解していない。中国等に国際緊急経済権限法(IEEPA)の発動を検討中。これで解決だ!

この大統領発言に関してホワイトハウスは、1977年発効のオフィシャルペーパーを示すとともに次のように説明した。

経済の重大な脅威に非常事態宣言を行いIEEPAを発動すると大統領は包括的な金融制裁を企業、個人、産業に行う権限を得る。203条では企業の海外との資金取引を停止でき、301条では技術情報も輸出禁止できると記載。米企業は実質的に中国との取引が不可となり撤退となる。

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8月23日のトランプツイートが意味すること

トランプ大統領はG20大阪サミット後、中国が米国からの農産物輸入に消極的だったことを批判して、関税第4弾を課すと発表した。これに対し中国は、「農産物と自動車がトランプ大統領のアキレス腱」と見るや、報復関税とともに農産物全面禁輸や自動車関税を打ち出した。

8月23日のトランプツイートは中国の報復に対するさらなる報復と言うことになる。同時に米国は「中国を「為替操作国認定」して、人民元安をけん制した。

FRBに対する利下げ圧力継続

トランプ大統領は「米中貿易戦争の激化はFRBが大幅な利下げを行わないためだ」と主張している。つまり好調な米国経済と衰弱する中国経済というファクターで人民元安が進行していると考えず、FRBの金融引き締めによるものだという論拠だ。

これはかなり的を得た理屈で、2018年は中国のマネタリーベースが約4%拡大したにもかかわらず、米国のそれは約10%減少した事は、明確な人民元安の要因の一つだ。

従ってこれ以上関税率引き上げでエスカレートするのではなく、FRBの利下げを促すことで、対中貿易収支を改善したいと思っている。従ってより一層厳しくFRBに利下げ要求すると思われ、場合によってはパウエル議長の解任もあり得ない話ではない。

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関税戦争から為替戦争へ

現時点では米国トランプ政権は、為替介入を正式に否定しているが、FRBへの圧力は暗にドル安誘導の側面があることは否定できない。また中国は、人民元安であれば米中貿易戦争の悪影響を和らげる効果はあるものの、ドル建て対外債務が急増したために、痛し痒しなのだ。

また、現実に中国が為替介入を行って人民元安を抑えるにしても、相当な外貨準備が必要になり、簡単なことではないと言われている。

人民元安でドル建て債務のデフォルト危機となり、人民元高では貿易収支の悪化という、極めて厳しい状況に中国は立たされている。

国際緊急経済権限法(IEEPA)は発動準備完了状態

8月25日にトランプついーとによってIEEPAの発動準備をしていることを匂わせたトランプ大統領だが、これにすぐさま反応したのが、中国の劉鶴副首相だった。

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IEEPAの趣旨は安全保障・外交政策・経済に対する異例かつ重大な脅威に対し、非常事態宣言後、金融制裁にて、その脅威に対処する。具体的には、攻撃を企む外国の組織もしくは外国人の資産没収(米国の司法権の対象となる資産)、外国為替取引・通貨及び有価証券の輸出入の規制・禁止などである。

従ってあらゆる局面で包括的に、金融制裁ができるという極めて厳しいもので、劉鶴副首相はそれを良く理解していると思われる。

仮にIEEPA発動と言うことになると、中国にとっては最大の脅威である金融制裁を課せられる可能性が出てくる。そうなると金融機関のドル交換禁止措置や米国上場の中国企業でさえ、活動は不可能となり、中国経済は壊滅する可能性がある。

国防権限法2019は既に発動

すでに国防権限法に基づき米国は、8月13日からファーウェイのほか、通信機器大手の中興通訊(ZTE)、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)、海能達通信(ハイテラ)の5社との政府調達における取引を禁止した。

さらに来年8月までに、5社の製品を使う外国政府や企業・団体との取引も禁じる予定となっている。また商務省は今年5月より民間規制も実施している。

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新ココム(米国輸出管理改革法:ECRA)年内発動?

そして昨年議会を通過した新ココムと言われる米国輸出管理改革法(ECRA)が、年内全面施行されると言われている。これは、中国製造2025で重点分野とされたハイテク14分野すべてを対象にしていて、すべてに適応されることになれば、中国企業だけでなく日本企業もまた大きな影響を受けることになり、現在本格的な対策が経済産業省で行われている。

仮にこの新ココムが全面適用されることになれば、世界経済はかつての冷戦時代のように、寸断されることになるのは間違いない。

米国は中国を潰す

米国は第二次大戦では欧州を席巻したナチスドイツを潰し、戦後復興で米国の脅威になった日本を日米貿易摩擦、プラザ合意、年次経済要望書等あらるる手段で経済成長を止めた。

そして今回はGDPで日本を抜き世界第二位となり、ハイテク分野でも米国を凌駕する勢いの中国を全面的に押さえこむことが、米国の目的であことは明らかで、それが米国の歴史でもある。

ドイツも日本も、そして中国の場合も議会がその推進役となっているわけで、たとえトランプ政権でなくても方針に変わりはないだろう。

その意味でも、米中貿易戦争は日米貿易戦争とその後がそうであったように、形を変えながら、徹底的に追い込んでくるはずだ。現時点でその急先鋒がトランプ大統領ということなのだ。

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