ボルトン解任に見るトランプの安全保障弱腰は米国の弱点

ボルトン解任に見るトランプの安全保障弱腰は米国の弱点

イエメンの親イラン武装組織フーシのドローン攻撃によってサウジアラムコの石油施設が破壊され、サウジの原油生産の約50%(日量)が停止に追い込まれました。

これに対し米国のポンペオ国務長官は「サウジに対する100件近くの攻撃の背後にはイランがいる」とツイッターでコメントし、「緊張緩和を模索している中でイランは世界のエネルギー供給に対して前例のない攻撃を仕掛けた」とした。

ボルトン補佐官(国家安全保障担当)解任に反応?

トランプ大統領は9月に開催される国連総会で、トランプーロウハニ会談を行って、経済制裁の一部解除を目論んでいるが、これに猛反対したボルトン補佐官を突如解任してしまった。

トランプ大統領は、2020年の大統領選挙に向けて、米中貿易戦争でも一部暫定合意をする用意があるとし、また北朝鮮のミサイル発射に対しても容認する姿勢を見せて、外交における強行姿勢を一時的に大きく転換しようとしている。

そうしたトランプ大統領の方針に対し、ことごとく反対するボルトン補佐官を解任することで、強硬姿勢を緩和させたという見方が有力になった。

しかし、そうした米国の弱腰姿勢に敏感に反応したイランは、このタイミングを逃すことなくサウジの石油施設を攻撃することで、原油価格の引き上げを狙ってきた。強力な制裁を受けているイランにとっては、価格引き上げ以外に選択肢はない。

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ボルトンの解任理由

昨晩、私はジョン・ボルトンにもうホワイトハウスでの仕事は必要ないと伝えた。私は政権において彼の多くの提案等にかなり同意できないため・・・ジョンに退任を依頼し、彼は退任を今朝受け入れた。ジョンの仕事に大変感謝し、私はあらたな国家安全保障問題担当大統領補佐官を来週任命する。(トランプ大統領11日ツイート)

トランプ大統領がボルトン氏を解任した理由は、

1)タリバン指導者とキャンプデービットで会談する計画に強行に反対した

2)弾道ミサイルを発射する北朝鮮への妥協に反対し、米韓軍事演習を行った

3)9月の国連総会でのイラン・ロウハニ大統領との無地条件での会談に強硬に反対した

と言われているが、南米政策でもことごとく意見が対立していたと言われる。

しかし、仮に2020年の大統領選挙で、メディア各社がトランプ劣勢を煽っていなければ、トランプ大統領の外交姿勢は弱腰に転じることはなかったと思われる。

実際、トランプ大統領の現在のツイートは大統領選挙を意識したものばかりで、その意味では米国の左派メディアの戦略はかなり効果的であることは確かだ。

しかし、9月の下院補欠選挙では2名の共和党候補が勝っていて、現実を見ると大統領選挙をにらんだ偏向報道が仕掛けられている可能性は高い。

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ボルトンの立ち位置

上記の解任理由に関しては、ボルトン補佐官の立ち位置は正しい。その理由は・・・

1)アフガニスタン情勢

現在米国はアフガニスタンで2001年9.11同時多発テロ以来、米国史上最長の戦争を戦い続けている。テロの首謀者と思われたビン・ラディン殺害後もアルカイダの勢力は衰えず、対抗勢力と目されたタリバンを支援してきたが米国の思う通りに動かずに、米軍はこれまでに2400人以上の犠牲者を出した。

つまり、この戦争から撤退することは米国民の支持を得やすく大統領選挙に有利とみたトランプ大統領に対し、「その考えは甘い」と言うのがボルトンの立場だった。

足掛け16年にわたる戦いのプロセスは相当に複雑で、しかもイスラム過激派もイスラム国掃討以来全世界に散在している状況で、安易に妥協すれば世界はテロの嵐に巻き込まれる。

それほどに反米感情、反資本主義感情は根深いわけで、ディールで割り切れるものではないよ、と現実を知るボルトンは言いたかったのだろう。

2)朝鮮半島情勢

トランプ大統領は北朝鮮に対し、「米国が北朝鮮の核保有を認める代わりに、中国との同盟関係を破棄する」という条件で交渉をしようとしたことにボルトンは無条件ですべての核施設を放棄するという「リビア方式」を強行に主張し、「それ以外では経済制裁緩和に応じるべきではない」としていた。

トランプ大統領は北朝鮮に核保有させることで、対中国、対ロシアへの牽制が可能と考えているが、既に朝鮮半島情勢はトランプ大統領の思惑とは全く異なる方向へ進みつつある。それが韓国だ。

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韓国は、GSOMIA破棄、米韓同盟破棄の示唆、在韓米軍撤退要請、等文在寅政権がコレグジットを明確に打ち出し、さらには北朝鮮へのミサイル供与がほぼ確定的となった以上、非核化の条件は大きく変化してしまった。

それでもなお、金正恩を信じているとするトランプ大統領に対し「大変危険な考え方だ」と意見具申できた政権内の唯一の存在がボルトン補佐官だった。

このまま韓国が北朝鮮へ従属化するならば、核保有のまま経済の底上げができて、対中従属化することなく独立を保てると金正恩が考える可能性が突如浮上してきたということだ。

3)イラン情勢

そしてイラン。現在イランは経済困窮状態にありながら、18万人もの海外派兵と海外過激派組織への支援を継続しているという事実がある。

そして、イランのハメネイ師を頂点としたイスラム支配体制を崩さない限り、ロウハニ大統領と会談しても、まったく意味が見いだせない。

実際ロウハニ大統領は、ハメネイ師の一言で即解任される・・・それがイランの政治体制である以上、そしてイランが資金と武器を支援して支えている過激組織による、サウジ攻撃、ホルムズ海峡でのタンカー攻撃、そしてイスラエルへの無差別攻撃を中止させることなく、経済制裁を緩和するなどとんでもないことだ、というボルトンの意見は正解以外の何物でもない。

そして実際、ボルトン解任直後、サウジアラムコの原油施設がイエメンの親イラン武装組織フーシのドローン攻撃を受けたことでもボルトンが正しいことが証明されている。

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トランプの安全保障感覚は米国の弱点

米国は「世界の警察を止める」と言うのが、トランプ大統領の方針でもあったが、共和党はネオコン(新保守主義)の支持によって成立している側面が強い。その代表がジョン・ボルトンであると言われている。

ネオコンが自由主義や民主主義を重視してアメリカの国益や実益よりも思想と理想を優先し、武力介入も辞さない思想である以上、ディールと国益・実益を最優先とするトランプ大統領と政権内で衝突するのは必然だった。

しかし、宗教的・民族的なイデオロギーを重視せず、すべて経済的・ビジネス的な視点で外交を行おうとするトランプ大統領の外交・安全保障の政治感覚は、ある意味非常に危険な要素を含む。

トランプ大統領も就任当初は、ネオコンの影響が強く、海外戦略でも共和党の方針に従って、強行な姿勢に出た。米中首脳会談の最中にシリアにトマホーク攻撃をおこなって見せたり、北朝鮮の核実験に対し、艦隊を派遣し武力行使寸前に至ったこともあった。

しかし、結局のところトランプ大統領には、武力行使はできないし、その意思がないということを、世界は気づき始めている。

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ホルムズ海峡のタンカー攻撃後、ポンペオ国務長官はイランの仕業と発表し、報復準備のために偵察に使ったドローンを撃墜され、報復作戦を決行しようとした。作戦開始30分前に「何人犠牲になる?」と聞いて「150人程度」とボルトンが答えると、即作戦を中止してしまった。

このことで、トランプ大統領とペンタゴンに亀裂が生じたとする意見もあるが、今回のボルトン更迭で「米国の弱点」が鮮明になってしまった。

世界はますます混沌としてくる

米国の安全保障に対する姿勢は、米国が好むと好まざるとにかかわらず、世界の反米勢力に見切られてしまった可能性が高い。

たとえば、中国が台湾や香港に対し強硬に出てくる可能性を引き上げたり、イランがサウジとイスラエルに対し軍事的な行動を起こしたり、北朝鮮はトランプの思惑を裏切る行動に出るだろうし核開発は中止しないだろう。

さらに言えば、世界のイスラム過激派やテロ組織が、新たな行動を起こす可能性もある。

米国が世界の警察を放棄することで、世界の反動は米国に集中するだろう。

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