イランのサウジ攻撃:中東最大の危機で試されるトランプ大統領

イランのサウジ攻撃:中東最大の危機で試されるトランプ大統領

14日に行われたサウジ・アラムコの石油施設への攻撃に関し、イランが支援するイエメンの反政府武装組織フーシが犯行声明を出した。しかし、米国国務長官マイク・ポンペオは「イエメンからの攻撃ではない」と犯行声明を否定するとともに、「世界のエネルギー供給に対する異例の攻撃」がイランによってもたらされたもの、と断じた。

このポンペオの発言に対しイラン政府は怒りをあらわにし、アッバス・ムサビ外務省報道官は、「このように不毛で根拠のない非難や発言は、理解不能で意味がない」と話した。

泥沼化したイエメン内戦

2014年からサウジアラビアの隣国であるイエメンでは、イスラム・スンニ派のハディ派とイスラム・シーア派のフーシ派による内戦状態に陥り、首都のサヌアをシーア派がクーデターにより制圧し、大統領のハディがサウジアラビアに亡命してしまいました。

サウジはスンニ派の総本山であって、隣国がシーア派に制圧されたことに危機感を抱き、ハディ派の軍事支援を開始しました。しかし、政府軍であるハディ派が余りに弱く、サウジは大量の物量を投入した無差別爆撃を行うしかありませんでした。そして、無差別攻撃への批判や共同作戦を取っていたUAEの裏切りでサウジ自体が疑心暗鬼に陥る結果となってしまいました。

一方、シーア派優勢とみたイランは、アラブ世界の覇権を握る意味でもフーシ派支援に革命防衛隊を投入。この内戦をイスラムのイデオロギー戦争と位置付け、フーシ派に対し弾道ミサイルを供与してイエメン領内からサウジへの直接攻撃を開始したわけです。

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この内戦で決定的だったのは、サウジ軍によるスクールバスの誤爆で何十人もの子供たちを死なせてしまったこと。サウジ軍は国際世論の批判を浴び、2018年末から国連による停戦調停が開始され今年4月にはフーシ派勝利の形で停戦が成立しました。

しかし、フーシ派は停戦確定後もサウジへの攻撃を止めず、ドローンや巡航ミサイル攻撃によってサウジ国内施設への空爆や国境付近のナジュラーンを陥落させ、サウジ領内へ侵攻しようとしています。

そのような状況の中で、今回のサウジ石油施設への攻撃が行われたわけで、フーシ派/革命防衛軍の犯行声明に違和感はないはずですが、米国はドローンの飛来方向を北北西としてイラン領内からの攻撃とみなしています。

中東最大の危機?

サルマンサウジアラビア王太子第一副首相国防大臣経済開発評議会議長王宮府長官

現実的な問題として、サウジ軍は世界第4位の軍事予算をつぎ込む強力な軍隊である、と思われがちですが、内情はサウド家(王室)がクーデターを恐れる余り、軍を弱体化させる政策をとっていて、サウド家の親衛隊の性格を持たせているために、合理的な軍事行動ができな脆弱な軍隊と言われています。

そのためにこれまで再三に渡るフーシ派の攻撃に対し、有効な反撃を行うことができていないばかりか、国内施設は裸同然とも揶揄されています。

一方イランの革命防衛隊は、イラン正規軍とは別組織のハメネイ師直属の軍隊であり、軍の指揮権はハメネイ師にあります。またそもそも正規軍のクーデター防止のための軍隊という性格もありますが、決定的なのは「イラン防衛のためではなくイスラム革命の輸出」を第一義的な目的に掲げた軍隊であると言うことです。

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従って、現在サウジアラビア軍とイエメン・フーシ派の戦いは、サウジアラビア軍とイラン・革命防衛隊の全面戦争であって、そこでサウジは劣勢に立たされているわけで、本格的にサウジとイランの対決という構図になりイラン正規軍が加われば、サウジ全土は一カ月足らずでイランに制圧されると言われるほどの、中東最大の危機にあります。

動けないトランプ大統領

米国はホルムズ海峡のタンカー攻撃に対し、「イランにより攻撃」と断じ、さらに偵察用ドローンがイラン軍によって撃墜されたためのその報復としてイラン軍事施設に対する攻撃作戦を開始しました。

しかし、攻撃直前になってトランプ大統領は「人命尊重」という理由から、すでに作戦行動中の米軍に異例の攻撃中止命令をだし、報復攻撃を中止しました。

そのことが原因でトランプ政権とペンタゴンの軋轢が生じ、遂にはジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官を解任してしまいました。

しかし、忘れてはならないことは、この一連の出来事は、サウジ対イエメン・フーシ派(革命防衛隊)の全面戦争の最中での事だと言うことです。サウジアラビアは親米スタンスを取り、また米国もトランプ政権になってサウジとの距離を縮めているだけでなく、米国にとっては最大の武器輸出国でもあります。

既にサウジとイランの対立は本格化しようとしていて、イランが侵攻すればサウジの石油施設を防衛することは不可能であって、サウジアラビアの国土でさえ侵略される可能性があります。そしてそうなると世界のエネルギー事情は一変する危険がすぐそこに迫っているわけです。

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勘違いしたトランプをボルトンが責めて当たり前

そもそもイランは、イスラム革命によってイスラム・シーア派支配となった独裁国家です。すべての実権はホメイニ師の後継者であるハメネイ師が掌握していて、ロウハニ大統領という存在は、内政を行うためだけに任命されているということなのです。

しかし、トランプ大統領は、対イラン政策において、今月の国連総会の場でロウハニ大統領と首脳会談を行ったうえで、対イラン制裁の一部緩和を持ち出しました。

それに対し、イラン情勢、中東情勢を熟知しているボルトン補佐官は、トランプ大統領に激しく反対し、これが直接的なきっかけとなり解任されてしまったわけです。

現在のイランの政治体制は、イスラム革命のために18万人もの兵力を海外派兵し、中東においてイスラムの覇権を目論む国家であるということ、そしてそれはイラン政府ではなく、ハメネイ師と革命防衛隊によるイスラム革命によるものであるという事実をトランプ大統領は軽視していると思われます。

皮肉なことにボルトン補佐官の具申が的中したような今回のイエメン・フーシ派/革命防衛隊によるサウジ石油施設攻撃ですが、

トランプ氏はツイッターに「われわれは誰が攻撃したか知っていると考える理由があり、確認次第で弾は装てん済み(locked and loaded)だ。ただ、サウジが誰による攻撃と判断するか、そしてわれわれとしてどのように進むかを見極めようとしている」と投稿した。(ロイター記事より引用)

とコメントしなければなりませんでした。

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中東最大の危機で米国の威信が試される

この局面で、米国は果たして軍事オプションを行使できるでしょうか?

世界中がトランプ大統領の決断を注視していることはもちろんですが、今回の決断が今後の世界情勢を大きく変えることになるのは必至です。

日本では、サウジとイランのイエメン内戦から現在の全面戦争に至るプロセスは、ほとんど報道もされず、ただホルムズ海峡が封鎖された場合、日本は困る、程度の極めて稚拙な解説しか成されていません。

しかし、ここで米国が軍事介入を躊躇った場合、イランはサウジ侵攻を本格化させることはほぼ確実であり、その場合中東からの原油供給、および石油関連製品やアルミ地金などはストップします。

その経済的な影響は全世界的に計りしれないものとなり、同時に米国への信頼感も大いに揺らぐことになるでしょう。またそのことがまた朝鮮半島情勢やアフガン情勢、そして中国にも及ぶことになるわけです。

トランプ大統領は、就任以来最大の決断を迫られているのです。

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