トランプ失策!?経済制裁では解決しないイラン(中東)情勢
- 2019.09.21
- 海外情勢
イランの革命防衛隊が支援する武装組織による軍事行動が止まりません。現時点でもっとも緊迫しているのは、イエメンのフーシ派によるサウジ攻撃、そしてパレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの報復合戦です。
フーシ派に対し革命防衛隊はドローンや弾道ミサイル、さらには巡航ミサイルを支援し、ハディ派政府を駆逐するとともにサウジへの直接攻撃を開始しています。またハマスに対しては大量のロケット弾や迫撃弾を支援しイスラエルに対し無差別攻撃を行っています。
サウジアラビアの石油施設攻撃
サウジアラビア東部にある国営石油会社サウジアラムコの石油施設2カ所が14日攻撃された。これによりサウジの石油生産能力の半分以上が影響を受けるという。イエメンの親イラン武装組織フーシ派が、無人機(ドローン)で攻撃したとの犯行声明を出した。原油価格が上昇し中東の緊張感が一段と高まる可能性がある。(ロイター)
米国のポンペオ国務長官は、イエメン(フーシ派)の攻撃を否定し、イランが直接行った可能性が高いことを示唆しました。これに対しイラン政府は猛反発していますが、いずれにしてもイラン革命防衛隊の関与は明白で、宗教指導者ハメネイ師を頂点とする現時点でのイラン体制そのものであると言えます。
既にイエメン・フーシ派とサウジアラビアは国境を挟んで戦闘状態が続いていて、今回のサウジアラムコ石油施設への空爆を含めてこの数年間に100回近い空爆が行われています。しかも、首都リアドへの直接攻撃も行われていて、現在イエメンの実権をフーシ派が掌握している以上、両国はほぼ全面戦争状態と言っても過言ではありません。
イランの中東における軍事支援
イランは埋蔵される豊富な石油資源を巡り、欧米が不安定な帝政に介入して政治的・経済的な混乱を引き起こしていましたが、1979年イスラム革命によってイスラム政治制度へと移行しました。以来イスラム宗教指導者を頂点とする国家体制となり、中東は石油資源を巡る対立から、イスラム教内の宗派争い、反ユダヤ教へと発展し現在に至っています。
イスラム教の教義において預言者ムハンマドの後継者は誰か、という点で異なる方向を示した宗派がスンニ派とシーア派です。このイスラム教内の対立は、政治や経済において常に自らを正当化する理由として使われてきました。それが国家間の対立となって表面化しているのが、現在の中東地域であると解釈できます。
イランはイスラム革命の目的に「シーア派の拡大」を標榜しています。従って中東地域のシーア派に対し、スンニ派勢力と駆逐するための支援をおこなっていて、結果的に宗教支援がイエメン、イラク、シリア、レバノンへの内政干渉へと発展し、イスラム支配地域を不法に占拠する者との位置づけからイスラエル排斥を全面支援しているわけです。
今年5月、停戦が実現していたとされるパレスチナ・ガザ地区で、実効支配するイスラム原理主義武装組織ハマスは、イスラエルに向けてロケット弾や迫撃砲約600発を無差別攻撃し、対するイスラエル空軍はガザ地区の軍事拠点約200か所を報復空爆しました。
この応酬でガザ地区の停戦協定は無効化されてしまいましたが、ハマスのこの無差別攻撃はイラン革命防衛隊が供与した武器によって行われたとされています。
米国の対応
米国はスンニ派の盟主国であるとともに世界の石油埋蔵量の18%を保有する中東最大の産油国であることから「資本主義経済の安定化にとって不可欠の存在」と位置付けています。オバマ政権によって悪化した関係もトランプ政権になると、対イランの対抗勢力としてほぼ同盟関係と言われるほど緊密化してきました。
またサウジアラビアは米国最大の武器輸出先であり、トランプ大統領は2018年1100億ドル相当の武器売買契約を締結し、さらに今後10年間で3500億ドルの売買契約をオプションとするという内容で、イランに対する対抗路線を明確にしています。
イラン核合意離脱
2018年5月、トランプ大統領は、イランの存在そのものが中東地域における不安定要因であり、核兵器開発能力だけでなく、未来永劫に渡って核開発が出来なくなることを目指し、さらにはシリア内戦やイエメン内戦への関与、ミサイル開発をも封じ込めることを目的とし、イラン核合意から離脱しました。
このことは欧州各国やオバマ政権が躊躇った中東地域の宗教対立への介入の姿勢をしめしたものであって、サウジへの大量兵器供与と関連した行動であることは明白です。
しかし、それ以上にイランが核合意を履行せず、核開発やミサイル開発を継続しているとするCIAの情報に基づく行動とも言われていて、中東への北朝鮮からの武器輸出を封じる狙いもあるとされています。
サウジ石油施設攻撃に対する報復
トランプ政権は、サウジアラビア主要石油施設に対する攻撃について、米政府はその報復としてイランの中央銀行と政府系ファンド(SWF:国家開発基金)に制裁を科した。米国はイランの政府系ファンド(SWF)をイラン革命防衛隊の資金源であるとともに主要な外貨調達源としている。
また武力による報復を匂わせたものの、「すぐに攻撃命令を出さないでおくことで米国の力を誇示している」と発言した。
イラン経済は崩壊
イラン国内では2018年の大規模洪水によって復興不可能とされる被害を出したなかで、米国の核合意離脱と(イラン原油を同盟国に禁輸する等)経済制裁の影響で、イランの主要財源である原油輸出が日量250万バレルから日量40万バレルに落ち込み、通貨暴落とインフレで国民生活の疲弊は限界を超えています。
しかもそうした状況にも関わらず、イランは国外シーア派への支援を止めず、特にパレスチナ・ハマスとイエメン・フーシ派には継続的な支援を行っているわけです。
今回の米国経済制裁は、イラン中銀のドル調達を禁止するとともに、SWFでの海外調達も封じることで、完全にイラン経済を国際社会から封鎖したに等しい。そうなると、イランの支援国は事実上中国だけということになり、イラン経済の崩壊は確実とみられます。
その場合、追い詰められたイランは、(ホルムズ海峡封鎖やサウジ攻撃の激化など)強硬な手段に出るのではないでしょうか?
武力行使したくないトランプ大統領
2020年の大統領選挙を控え、トランプ大統領は武力行使等戦争行為を極力避けたいという姿勢が垣間見えます。従って武力を行使しない報復制裁とは、経済制裁であって、これを強化すればするほど、イランの国民生活を圧迫します。
こうした独裁国家では、北朝鮮の例を見れば分かるように、いくら国民が貧困で苦しもうが、軍事力強化への資金投入は決して止めることはありません。なぜなら、支配構造の維持そのものが、権力者の目的となるからで、国民の状況など「意に介さず」なのです。
北朝鮮はその支配を維持するために「朝鮮労働党のチュチェ思想」を用いていますが、イランの場合それが、イスラム教という宗教そのものの教義であるだけに、状況は極めて厳しいと言わざるをえません。
経済制裁は、穏健な手段であると思われがちですが、当事国の国民にとっては極めて過酷なものとなるわけです。
イラク同じ轍を踏む?
米国はかつての支援国であったイラクのサダム・フセイン政権に対し、周辺国への侵略行為を断罪して軍事介入に踏み切り、政権を打倒しました。
しかし、それはイラク国内に新たな部族間争いを生み出し、民主主義が根付くことはありませんでした。その状況をトランプ大統領は、「失敗」と評価しています。
なので、イランに対する軍事力の行使は、「イラクと同じ轍を踏む」として、ボルトン国家安全保障担当補佐官を更迭したわけです。
しかし、現在のイラン国内の経済情勢を考えれば、今回の経済制裁は軍事オプション行使と同等以上にイラン国民を苦しめる選択になると思われ、また、軍事力を背景にした圧力外交の効果も薄れます。
イランは中東における悪の枢軸
現在の中東の混乱の背景には必ずイランと革命防衛隊の存在があります。実際イラン国民はかつての自由な政治制度に戻りたいという親米派が世代交代とともに増えつつあるのですが、現体制では圧政下にあると言えるわけです。
従って、イランの現体制(宗教指導体制)が継続する限り、中東地域およびイラン国内の困窮は救うことはできないと思われます。
ここが、米国にとって対イラン政策のもっとも難しい部分であることは明白ですが、米国は中東の警察という役割を再度演ずる場面に差し掛かっているのではないでしょうか?
トランプ大統領には、サウジと武器供与契約を締結した責任もあり、イスラエル支持も含め現実には思い切り中東に関与しているわけで、すべてディールで解決できるほど、国際社会は単純ではないと思いますが。
経済制裁では解決しないこともある
トランプ大統領は、北朝鮮問題にも手を焼いています。その理由こそ、米国の自由主義とは相いれない朝鮮労働党のチュチェ思想があるから。そもそも根本的な価値観・宗教観の違いを経済だけで解決しようとしていることに無理があるわけです。
同様に韓国の文在寅政権が反日、反米色を強め、共催主義的な圧政に邁進していることも、呆れるばかりで理解できないのではないでしょうか。
しかるにイラン問題も、イスラム教指導者による圧政とイスラム革命の拡散を目的としている以上、経済制裁によって解決することは困難で、また経済制裁を強化すればするほど、国民生活を苦しめるというジレンマも存在します。
よって、トランプ大統領の経済制裁は、思想(宗教)の壁は超えられないのかもしれません。
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