EVが自動車の概念を覆す日は近い
- 2019.10.29
- 自動車

テスラの存在を日本の自動車メーカーはどう考えているのだろう?
たとえば国内で最もEVに熱心とされる日産でさえ、身内のトラブルと相まって、リーフというコンパクトカーでお茶を濁す程度。いわんや他メーカーとなると、充電スポットが少なすぎるとか、メンテナンスができない、アフター流通が未整備、バッテリーの信頼性や環境対策が・・と次々に課題を持ち出して、完全に腰が引けてる。
しかし、実際のところ、EVは現在のガソリン車の生産設備や人材を半分以上否定してしまいかねないから、安易に移行できないというのが本音。だが急速にEV化が進めば、それこそ(自動車メーカーとして)命取りになると経営者は本気で考えているだろう。
テスラの存在は大きな脅威
ここ10年程、テスラに関しては経営不安やオートパイロット(レベル2自動運転)の弱点ばかり指摘されていて、最近では2018年経営破綻説やイーロン・マスクのドラッグ批判等々、常に槍玉にあがってばかりだった。
しかし、考えても見ればペイパルを成功させて、スペースXで民間の宇宙開発を商業ベースに乗せようとしている天才経営者が、EVのようなビジネスフィールドでこけるはずはない。このカネ余りの時代、世界には1兆円でも2兆円でも右から左に投資できる富豪はいくらでもいるし、低金利時代にテスラに投資したいと考える一般人はいくらでも集まる。
テスラの存在は既に既存メーカーにとって大きな脅威に成ろうとしている。
自動車を新世代ビジネスにした
既存コンポーネンツを流用してデザインを一新し世に送り出しても、自動車メーカーと認定されることはない。ガソリン車を新規開発するという夢を実現できたのは、恐らくフェラーリやランボルギーニが最後で、それは鋳鉄エンジンブロックを砂型を用いて作るという古典的手法が通用した1980年代までの話だった。
生産設備がないから、砂型で作ったエンジンブロックに同じく砂型のシリンダーヘッドを組み合わせ、組み立て職人がタイミングを調整しながら手作業で組み立てるV12なんてどうなの?という時代。フレームを鋼管溶接で繋ぎ合わせて作ってまるでサンドバギーにシャープな外装をつけたようなスーパーカーなど、ほとんど走る棺桶だった(そうした手法が通用したのは、明らかにワンメイクのF1カーの存在があったからだが・・・)。
イーロン・マスクだって最初はロータスからシャシーの基本コンポーネンツを買ってエンジンの代わりにモーターを付けた。すでに工作機械などでモーターの制御技術は確立されていたことも追い風になって意外にまともな車(テスラ初代ロードスター)ができちゃった。後はイケイケの乗りで、という感じ。
問題はまともなバッテリーがなかったことだが、ようやくリチウム・イオンが使えるレベルになってパナソニックと提携したわけだ。
シャシー技術は確立されていて、設計段階で個別にチューニングするだけだから、車のエンジンをモーターにできたら、面倒な開発プロセスの半分は省略できる。さらにシャシー技術が確立されていれば、あとはデザインやパッケージに集中でき、そしてシリコンバレーでは苦にもならない電子制御化を取り入れて・・・。
こういう状況のなかで、オートパイロットの開発もできてしまったということ。時代の追い風もあったろうけど、これをやってしまったのがイーロン・マスクだったというのは偶然ではないのだろう。いまだにシャシー関係では流用部品が多いものの、堂々とメーカー認定を受ける量産型メーカーとなってしまった。
既存メーカーは戦々恐々?

こうしたテスラのEV開発に対して、まともに張り合おうという自動車メーカーが未だに現れないのが不思議なのだ。
もちろん各メーカーともにEVに触手は伸ばしている。たとえばトヨタだって2010年にテスラと資本・業務提携を発表したが、いよいよ自社開発で本気になったのか2017年には提携を解消しているが、未だにEVモデルは発表されていない。日本メーカーでは日産がリーフで細々と継続的に開発はしているものの、本気とは言い難い。
その理由は、バッテリー寿命にある。現状のリチウム・イオン電池の欠点は、充電回数と経年での劣化が激しいという欠点がある。たとえば新車を買って、その性能を維持できるのはせいぜい2年程度で、あとは急速にバッテリー劣化に襲われる。自動車という商品の性質上、10年単位の商品寿命を考慮しなければならず、当然劣化したバッテリーは(現在のレベルでは)性能維持のためには最低3年に1度は交換しなければならない。
(バッテリーの)交換コストが50万、100万単位で掛ってしまう商品が成立するのか?という課題がある。しかし、本音はそこではないのかもしれない。トヨタがテスラとの提携を解消したのは、自動車技術に関して(テスラから)得るものはなく、モーター制御技術も十分に日本は先進国なのだから、ゴーを出せばいつでもEV生産は可能という楽観があるのだろう。
だとするなら、既存のラインナップを殺さないように十分に時間を賭けて慎重にEV化を推進するというのが横綱相撲なのだろう。トヨタのそうした行動をみて他メーカーは大いに安心した。
トヨタは今、全固体電池の開発に躍起になっている。小さなサイズではすでにTDKやFDKが実用化しているものの、大容量電池はさらに数年かかるとみられる。全固体電池であれば、寿命も蓄電容量も大きく伸びて、何より発火の危険性が回避できるため、そこを狙っているのは明らかだが。
また全固体電池が実用化になれば、日本ではコンパクトカーや軽自動車が救われる。パッケージが可能になって中型車、高級車よりも断然ビジネスになるのは目に見えている。
さらにEV化は自動運転実現に必須なのだ。自動運転の重要な課題の一つに、自動車自体の制御技術の確立というのがある。動力性能を思いのまま制御してこそ、自動運転は成立する。さらに膨大な走行情報を処理しながら車体をコントロールするのが自動運転の基本で、一気にその領域を目指そうとしているのがトヨタなのかもしれない。
イーロン・マスクの焦り
もちろんこうした事情をイーロンマスクは熟知していると思う。先行メーカーは常に市場を切り開くという莫大なコストを必要とするし、追われる立場が不利であることも分かっているだろう。
なので、テスラが今後も優位性を保つには、可能な限り逃げるしかない。競馬で言うところの先行逃げ切り馬。だから現時点で可能な限りリードを広げる必要があるし、そのためには経営的な冒険も厭わないだろう。
もっとも最終的に事業売却という選択肢もあるかもしれない。また経営的ににっちもさっちも行かなくなってるGMやフォードとの統合もあったりするかもしれない。10年後にはテスラが吸収する側だったりすることさえあり得る。
いずれにしても、イーロンマスクは焦っているだろうけど、EVにはそれだけの可能性が十分にあるのではないかと思う。
EVの優位性
ガソリンエンジンの内燃機関としての熱効率は、せいぜい30%~40%程度。一昔前には30%にも届かなかった。一方モーターの電気エネルギー変換効率は95%程度であって、このことは制御性に大きく影響が出てくる。
相対的なエネルギー効率は、ガソリンや火力発電のための原油精製、発電時のエネルギー効率を考慮すれば、恐らく内燃機関のほうが優れているのかもしれないが、非常に複雑な計算になるので考えないことにしよう。要は、自動車としての優位性が重要なのだ。
技術が解決するデメリット
いま、EVのデメリットとされている、航続距離の短さ、充電時間の長さや充電場所の確保、バッテリーの大きさなどの問題は、普及とともに解消されるものだ。最大の問題はやはりバッテリーで、現状の体積エネルギー密度の低いリチウム・イオン電池では、航続距離を確保するために大量のバッテリーを搭載しなくてはならない。
なのでEVの命運を握るのは、「体積エネルギー密度の高い全固体電池」の開発にあると言える。現在のリチウムイオン電池の電解質は液体で、液漏れや分解という問題が付きまとい劣化することで電池寿命が短くなってしまう。そこで固形電解質ができれば電池寿命は飛躍的に伸びるとされる。
しかし、重要なのは体積エネルギー密度の向上で、現在の最大の技術的課題と言える。
比較にならないドライバビリティ
1989年、トヨタは満を持してV8-4Lエンジンを搭載したセルシオを発表した。このとき、全世界の自動車メーカーの度肝を抜いたのはその静粛性だった。セルシオは初代、2代と乗り継いだ経験から、何度もエンジン音が聞こえずにセルを回したことがあった。
そしてそれ以来世界の高級車は、静粛性を重視したものになった。
このエピソードはつまり、自動車は静かであって欲しいというユーザーとメーカーの要求を表している。もちろんスポーツカーなど、エンジンの音や振動を積極的に楽しむというのは自動車の楽しみ方ではある。しかし、EV化することで、すべての車種で圧倒的な静粛性をもたらすという最大の特徴があり、これは大多数のユーザーの要求を満たすものだ。
その意味ではガソリンやディーゼルとは比較にならない。
そして静粛性と双璧をなすのが圧倒的なドライバビリティである。内燃機関は基本的に出力とトルクはある領域まで回転数に比例する。なので最大パワーを発揮する回転数までジワジワと出力を上げる特性となる。しかしEVはトルク変動がないために、常に最大トルク状態でモーターが回転する。
その違いは圧倒的な加速力となって現れる。これはガソリンエンジンの加速に慣れている感覚を覆すもの。たとえば日産リーフはコンパクトセグメントのEVなのだが、その発進加速は実用域において高級スポーツカーと遜色がない。
これは、運転上の多くのストレスを解消してしまうことに気づく。
また基本的にトランスミッションを必要としないために、加減速時の段付きショックを感じることはない。これはドライバーのみならず同乗者にとって福音だろう。
その他、回生ブレーキ(摩擦エネルギーを電気エネルギーに変換)のためにブレーキパッドが(ほとんど)減らない、プレ空調ですぐにエアコンが温まる、等々細かなメリットは多いが、基本的にガソリンを燃焼させ熱エネルギーを発生させ、それを回転エネルギーに変換して変速システムで走行条件の最適化をはかるという複雑な機械的メカニズムを必要としないシンプルさが、イージーなドライバビリティとメンテナンスを実現するのだ。
EVの時代へ
ブガッティ・シロンというVWが開発した量産者最速と言われるスーパーカーがある。最高出力1500馬力、最高速度407キロ、価格約3億円という究極の車なのだが、実用域(0-100km/h)加速において1000万円ほどのテスラ・モデルSはまったく同等の加速(2.5秒)を実現してしまう。
これは単純に速さだけの問題ではなく、今後自動車において速さを競うことの意味がなくなってしまうと言える。今後、電池がより高性能になれば、コンパクトEVでさえスパーカー並みの加速を、静粛かつ無振動で実現できてしまう。
これがEVを評価する象徴的な事象であって、こうしたショックは車の制御系を含め、あらゆる部分で発揮されることはほぼ間違いないと思われる。
体力が許せば2020以降予約順にデリバリされると言われるテスラ・ロードスターを躊躇わず予約していたに違いない。ただ、残念なことに0-100km/h加速2.1秒という暴力的な加速に耐えられないのは確実だ。
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