働き方改革はデフレ促進政策?安倍政権のエゴ?
- 2019.07.12
- 放言
今年4月1日より安倍政権の目玉政策と言われた、働き方改革関連法が施行された。この一連の関連法改正は、
- 働き方改革の総合的かつ継続的な推進
- 長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現
- 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
の三本の柱から成り立っている、とされています。しかし導入後の評判は非常に悪い。
長時間労働の是正が柱
一連の関連法改革のなかで最も注目されているのが、所謂「残業規制」で、基本的に残業の上限を45時間/月、360時間/年と設定され、繁忙期などの要因のある業種の場合、100時間未満/月、6ヵ月間平均80時間以内、年720時間以内の特例が設けられている。
従来は労使間で「36協定(労基法36条協定)」を締結すれば、締結内容に規定されている上限時間が基準になり、割増賃金等が取り決められた。しかし、上限を規定する法規がなく事実上無制限であって、所謂ザル法だった。
ここでのキーワードは、「労使間」で、36協定は組合または労働者の過半数を代表する者と会社との労働協約なので、言い換えると約半数の労働者は無理やり長時間残業を強いられる、と言うことが起こりえる。
これがブラック企業の根源だ。
そこで基本的には、36協定の内容を、今回の改正によって労基法の枠内とし、違反には罰則規定が設けられた。これは一見歓迎すべきことのようだが、実はその上限が低すぎることで、労働者の残業が抑制され、大きな収入減となってしまった。
誰が提案したのかは分からないが、45時間/月、360時間/年という数字は、たとえば残業の需給が¥2,000とすると、年間フルワークでも¥720,000しか所得は増えない。
これが、非正規雇用ならば時給が低く(時給¥1,200ならば年間¥432,000)、当然社会保障制度やローンからはみ出してしまう事例が出てくる。従ってその場合にはダブルワーク等で補う必要があり、返って個人単位での労働条件は悪化し、労働生産性は低下する一方となる。
また、労働時間の弾力性が失われたことで、余剰な業務を吸収する手段がなくなった。自宅へ持ち帰ったり、休み時間を利用するなど、現実的には必ず皺寄せが出てくる。
年次有給休暇5日以上の消化を義務付けているが、在宅ワークで補うために使われる可能性が高い。
法改正の主眼
安倍内閣によれば、働き方改革の主眼は、労働生産性の向上と労働シェアによって女性や高齢者の雇用を増加させ、失業率を低下させ労働参加率を高めることらしい。しかし双方とも日本経済の景気回復には全く寄与していない。
労働生産性の向上
日本の労働生産性はOECD諸国のなかで20位(2017年)という意外な結果になっている。これがなんともバカバカしい議論で、労働人口の減少にもかかわらず世界第3位のGDPの日本が、そんなに低いはずがないし、また日本人の誰もがそうは感じてりないはずだ。
まさにその感覚が正しいのだ。
労働生産性は単純に考えると以下のように計算される。
そしてOECDの労働生産性の国際比較は、各国の国内の労働生産性を算出し、単純比較してこれに順位付けをしたものだ。しかし、グローバル化した現代の経済では、企業は積極的に海外投資を行って、同時に労働進出しているわけで、国内部分だけを比較することに意味はない。
それでも政府は労働生産性の国際比較を気にしてか、こともあろうに分母である「労働時間」を短縮し小さくすることで労働生産性を向上させようというのだから御笑い草なのだ。
本来、合理化や効率化対策によって分子である付加価値を増やすことで労働生産性は向上しなければ意味がないし、経済が拡大している場合は、必然的にそうなるはずのものだ。しかし、政府の政策は、経済はこれ以上拡大しないと決め打ちしているに等しい愚策であり、まさにデフレ政策そのものなのだ。
労働のシェア(女性・高齢者)
安倍首相はアベノミクスによって労働参加率が飛躍的に向上し、労働者の総収入が増えたと主張している。そしてさらなる労働参加率の向上にために「働き方改革が必要である」と主張した。
目的は労働時間の短縮によって仕事を分かち合うワーキングシェアである。
その根拠は、日本人の長時間労働を是正し、また女性や高齢者の社会進出の機会を増やす必要があるというもので、同時に日本の労働人口の減少対策でもあるとしている。
しかし、オランダの例を観るまでもなく、労働時間を短縮して仕事をシェアするのは、不況下で高失業率の場合には有効であっても、失業率が最低レベルの日本では、労働生産性を損なうことになるばかりか、低賃金労働者の数が急激に増加する可能性が極めて高い。
そうなると「労働参加率の向上=豊かな生活」という虚構を助長することになる。
本来雇用の増加は、景気回復によってもたらされるもの。そして労働力不足は賃金の上昇によって補われるものでなければならないし、海外での失業率低下は例外なく経済的な発展によってもたらされている。
しかし、経済が成長せず、社会制度を維持するために、労働参加率が増加するのは当たり前のことだ。しかも毎年増加し続ける社会コストのために労働者の可処分所得は減少の一途。そこにさらに働き方改革を導入すれば、状況はますます悪化する。
労働基準監督署の介入拡大
働き方改革導入の社会的背景に「サービス残業」「ブラック企業」が蔓延しているという事情がある。今回の法改正で、36協定違反に対し罰則規定が設けられたことで、労働基準監督署の権限が実質的に拡大されたことになる。
本来労働基準監督署の権限は、警察に匹敵するほど強大である。強制捜査、逮捕、拘束、火器の使用まで可能な権限があるわけだが、実際の取締に関する法的な裏付けに乏しく、そうした組織にはならなかったという背景がある。
そうした労働協約違反を防止する意味で、違反の摘発に積極的になれるような法改正さえ行われれば、十分に抑制・防止が可能であると思われるが、そのことと労働時間を法規制することに関連性はない。
デフレ促進政策なのは明白
「働き方改革」は、日本経済の発展や成長を諦めた、デフレ促進政策である。
政府は労働力不足を叫び「改正入管法(移民法)」を働き方改革関連法の施行に合わせて、異例のスピードで導入し同日施行とした。将来不足する人口減による労働力不足を外国人に求めたわけだ。
確かに老人介護や農業といった分野では、労働力不足は致命的に成りつつある。しかし、こうした分野での労働力不足の原因は明らかに重労働に見合う収入が得られないことが原因だであるし、それは他の分野でも同様だと思われる。
日本は、「絆社会」「おもてなし社会」「やりがい社会」といった、収入を無視した雰囲気を社会全体に蔓延させている。たとえば若者に対し、「収入よりもやりがいや社会貢献が重要」といった雰囲気を作り出すために、ボランティア活動を急速に普及させたと言える。
もちろん社会貢献は重要ではあるが、労働の基本を収入に置かなければ、資本主義は成立しないのだ。日本中の企業がNPOになったら・・・社会は衰退するだろう。
デフレ化する日本に未来はない
まずは何よりも日本経済を正常な成長路線に乗せることが最重要過大であることは言うまでもない。景気が回復しなければ、いくら社会制度改革を実施しても、それらは総じて逆効果を生み出す。
「働き方改革」も、「消費税増税」と同時に導入すれば、完全にデフレ促進政策になる。
安倍政権はことごとく、政策が逆転していると言える。
しかるに、デフレ化する日本に未来はないと思わざるを得ない。
-
前の記事
週明けのトランプツイート爆弾は炸裂するのか?:7月12日(金)後場 2019.07.12
-
次の記事
株修羅戦記:今週の振り返り【7.8~12】FRB利下げと韓国問題で翻弄された! 2019.07.13