FRB緊急利下げが歴史的ミステイク?それとも大ファインプレー?

FRB緊急利下げが歴史的ミステイク?それとも大ファインプレー?

今夜のメインイベントである2月米国雇用統計は、コンセンサスの+17.5万人に対して+27.3万人で着地した。1月の速報値(+22.5万人)も改定されて+27.3万人に。そして2月は+27.3万人であるので、まったく同数となった。速報値なので確報は来月だが、それにしても2月の新型コロナ騒動の中で良好な数字になったものだと感心した。

あと15分ほどで米国市場は寄り付きになるけれど、この数字を今夜、どう織り込むのか興味津々だ。CFDは一旦好感して戻しかけたが、また戻ってしまった。しかし、今夜、寄り付き前から既に▲$880とかの下落を示唆しているけれど、どうなるのだろう?

米国市場にとっての正念場

今夜の米国市場は、まさか?とは思うが$25,000割れて、2月28日の底値となった$24,681に接近するような動きになる可能性も否定できない位、需給が悪化していると思われる。米国ダウは現値(昨日引け値)$26,121は、300日移動平均さえ下回る水準であり、大幅利下げが効果なしという失望感もありセンチメントも非常に悪化している。

しかも米国債10年物は現時点(寄り付き10分前)で、なんと0.697Pというまさに歴史的な水準まで低下していて、これはリスク資産の株式から資金が大量に逃げている証でもある。

こうなると、株式市場はズルズルと売られるしかなくなってしまうかもしれない。今後どうなるか分からない株式投資よりも絶対に安全な米国債のほうがいいに決まってる、とファンド等の大口は考えるだろう。しかも金利があればいくらでもいい、と考える。資産防衛のためなら当然かもしれない。

しかし、怖いのはHYGやCLOが売られて米国債に乗り換えが始まったときで、そうなると債券市場が大きく揺れることになりかねない。

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FRBの早計な利下げは歴史的過ち?

しかしこれだけは言える。やはりFRBパウエル議長の、というか全員一致だからFRBの、と書くべきだろうけど、電撃的なFOMC前の、FFレート0.5P利下げは、株式市場からまったく歓迎されてない。いや、歴史的なミステイクとまで言われてるわけで、散々な結果にどうやら終わりそうである。

しかもさらに17日、18日のFOMCでは、さらなる利下げも辞さない姿勢であると言われていて、それまでの約7日間の相場が、どうなるのかは全く見えていない。もしもさらなる下げ相場が継続するとすれば、FOMCでの追加利下げは、株式取引で言うところの「ナンピン」も同然だ!

「中銀による利下げのナンピン」など、聞いたこともなしだ。

FRB緊急利下げ後の値動き

FRBが緊急利下げを予告したのは、2月28日の引け間際だった。そして、米国ダウは引け間際の15分間で、約$800を戻して陽線引けとなり、底打ちを暗示させた。翌3月2日は完全にリバウンドモードとなり、過去最大幅の$1,293の上昇で戻り相場への期待感が高まった。

そして翌3月3日に電撃的な0.5%緊急利下げを発表し、一気に株価を戻そうという目論見であったはずが、マーケットは電撃的な大幅利下げというサプライズに包まれたものの、新型コロナ懸念とぶつかり合う格好となって、▲$785と強烈な押し目となってしまった。

しかし翌日には、民主党の大統領候補がバイデン氏有利となると、利下げ+穏健派候補という相乗効果が生まれ、またも$1,173という強烈な上昇を見た。しかし、FRBの大幅利下げはミステイクという論調が強まり、また新型コロナウイルス拡散が、いよいよ米国で現実味を帯びてきたことを嫌気して5日には▲$969と沈んだ。

連日の$1,000パンチの応酬となったが・・・強烈なボラティリティである。

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FRB緊急利下げがミステイクである理由

なぜマーケットは今回の大幅利下げを評価しなかったのか?という問いに、一言で返すとすれば「早過ぎた」ということ。まだこれから新型コロナの影響がどれくらい出てくるのか分からない状況で、しかもFRBはトランプ政権からは利下げ圧力を受けていたりして、情報もある程度政権と共有できていたと思われるが、肝心のCDC(米国疾病対策センター)とは、まったく情報の共有がなされていないことが、明らかにマーケットの反感を買った。

いま、米国でさえ、最も懸念されているのは新型コロナの蔓延であって、米国民はとにかくCDCに全幅の信頼感を持っている。そのCDCが、今後感染者が増えると言っている最中に、突如として大幅な利下げを断行したわけで、この政策の評価は「実体経済の悪化に歯止めがかかるのか?」という視点になる。

その結果、利下げしても、サプライチェーンは復活しない、中国を中心とした海外の景気は回復しない、日本も円高でますますダメになる、等々考えざるを得ない。そうすると、結局FRBはトランプ政権と同じで、株価上昇のみを狙っての利下げと見るだろう。

それで、「パフォーマンスで株価の暴落を食い止めたとしてその後はどうなる?」と考えると、やはり新型コロナの状況が悪化する方向では、FRBの政策は信用できない、という結論に達してしまう。実際、日銀がETFをいくら買おうが、誰も政策的には信用していないのと同じで、FRBもまた下手をするとレームダックと市場が判断してしまう可能性も大いに出てきてる。

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FRBが緊急利下げに踏み込んだ真の理由

しかし、天下の米国中銀であるFRBが、単に株価を気にして政策を打ってくるとは思えない。そしてやはり裏には、爆発的に増加しつつあるドル需要に対し、強烈なドル不足が見込まれ、再度レポ金利(国債等債券担保の短期資金取引金利)や短期市場でのドル調達金利が急騰することを防止するのが目的だったのは明らかだ。

昨年10月にもレポ金利が10%近く急騰し、債券が担保と成らず極めて厳しい状況に陥ったが、今回も急激にドル需要が新型コロナ騒動によって高まり、ドル不足を誘発することを防止したかった。

仮に現状で債券市場で事故が起これば、一気に金融危機となりかねない状況にあるわけで、FRBが株価対策をしたわけではないと思われる。

しかし、株式市場から見ると、そうしたFRBの意図は別にしても株価対策としての効果が期待できないと判断すれば株価は急落してしまうのだ。

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FRBの緊急利下げの評価

FRBの今回の緊急利下げによっても、米国債買いは全く歯止めがかかっていない。マーケットは完全にリスクオフである以上、相当量のドル買い需要は継続するはずだ。

株式市場の評価は、ネガティブな受け止め方となったが、しかし債券市場のことを考慮すれば、FRBは利下げする以外にさらなる債券買いを行って資金供給する以外にない。すでに現時点でも約6兆円の資金供給を行っていて、さらに追加となれば、半年程度でFRBのバランスシートは最高水準に戻ってしまう。

だからこそ、パウエル議長は自ら「政策余地は極めて少ない」と議会証言してしまったのだ。

こうした事情を考慮すると、株式市場は今回の緊急オペを歴史的ミステイクと評価する一方、金融機関は溜飲を下げたに違いない。

株式市場は下落するのが当たり前で、こんな状況ではファンダメンタルズとの乖離を埋める方向に動く。だからこそ、利下げと言うのは株式市場では、金融政策と言うよりも、企業のファンダメンタルズにどれだけ寄与するか?という判断になる。

一方、債券市場のトラブルを未然に防ぐと言う意味では明らかに大ファインプレーと言える。

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