米国防権限法発動で半導体・電子部品が危ない

米国防権限法発動で半導体・電子部品が危ない

株式投資の観点から見れば、6857アドバンテストが7月30日の決算を受けて、良く31日に朝の寄り付きからS安するというのは、通常では考えられないことだ。確かに半導体セグメントということで5G投資活況の今年、同社への市場の期待も大きかったし、株価もそれなりに高値圏にあったことは確かだが、同時に上限250万株の自社株買い、そして決して高いとは言えないが配当¥82/年間は据え置いているわけで、今期最終予想で▲33%の減益だけで朝一番から60万株の成り行き売りを浴びてS安貼り付けはあり得ない。

日頃から同社株の短期投資を繰り返している身としては当然、監視リストに入っていて毎日チェックしているわけだが、僅か60万株であれば十分ザラ場でより高値で捌けたはず。それを成り行きで手放すというのには、何か理由があるはずだと考えるほうが自然だ(前場一度寄り付いてさらに追加玉を出して再度S安に張り付けた)。

すでに国防権限法は発動済み

2019年5月、米国はファーウェイに対する禁輸措置を発動したが、製品に含まれるアメリカ由来の技術比率が25%以内であれば従来通りの取引が可能だった。しかしその後25%が10%に引き下げられ、今年5月にはファーウェイのみならずZTE、ハイクビジョンなど、中国ハイテク5社に対する禁輸を強化した。少なくともTSMCはIT(テキサス・インスツルメンツ)由来の企業であり、半導体製造に関する多くの米国由来の基本的な特許、知的財産権、ノウハウ等を用いているといわれる。それが製品に対し、どの程度の割合を占めるのかは、基本的には米国当局の判断によるわけで、いたずらに対立関係に陥りたくない。

そこでTSCMは、米国アリゾナ州に1.5兆円を投資し、5nm(5ナノ・プロセス)の新工場を建設すると発表した。これによって、国防権限法適用による罰則等を回避したわけだが、同時に将来、5G基地局、端末に関するサプライチェーンは従来の中国工場生産から米国へ移行することになる。

しかしこの発表が半導体業界に大きな波紋を投げかけることになる。

まずTSMCの大口顧客であるアップルは、iPhone等のCPU製造委託先をインテルから自社製にすると言い出した。そしてインテル自体も将来TSMCに製造委託するかもしれないと表明して、株式市場の嫌気を誘い株価は急落している。またGPU(グラフィック・プロセッサー)のエヌヴィディアやCPUのAMDも含めて、世界の主要ハイテクメーカーはほぼすべてTSMCへ製造委託をしているというガリバー企業ぶりが表面化した。

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また米国は韓国サムソンに対し、ファーウェイにCPUを供給しないよう圧力をかけている。今秋行われるG7にトランプ大統領が韓国を入れるといって、日英仏がこぞって反対しているが・・・。米国としては韓国とのディールで中国と引き離したい思惑がある。現時点で現行の7nm(7ナノ・プロセス)半導体を歩留まり良く製造できる技術はTSMCとサムソン、それに苦戦しながらも一部はインテルの3社だけであるが、サムソンは日韓関係が拗れ高品質なフォトレジストが入手できず苦戦している。

そこで米国は韓国文大統領に日本側への妥協を促し、日韓関係を改善する動きに出てサムソンを取り込みたいという意思がうかがえるが・・・。

いずれにしてもTSMCには、米国から相当な圧力がかかったことも事実で、同社はファーウェイへの禁輸を飲まざるを得なかった。一方中国は、半導体の自社生産を表明していて、現在莫大な投資とともに製造技術の確立を目指している。その成否を握るのは、高集約度半導体の製造技術の確立であり、それ以上に製造体制をいかに整備するかという大問題が横たわっている。

サプライチェーンを分断

米国はこれまでの対中政策の失敗によって、米国のハイテク技術はほぼすべて中国に奪われたことに気づいた。そして2018年の米中貿易戦争を開始し、米国への富の回帰を目指したわけだが、同時にファーウェイやZTEに対し制裁を加えることで、5Gにおける中国覇権を阻止しようとした。そして新型コロナの感染拡大に伴って米国内での対中強硬論の盛り上がりを背景に、一気に半導体や電子部品等ハイテク部品の分野で攻勢をかけてきた。

そこで半導体製造に関し、台湾TSMCと韓国サムスンに国防権限法の適用をチラつかせ圧力をかけるとともに、次のフェーズでハイテク製品製造に不可欠となる日本の半導体関連企業、電子部品関連企業をターゲットに圧力を強めることが予想される。

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日本のハイテク部品関連企業の最大の輸出先、供給先は言うまでもなく中国である。また自動車関連の電子部品も急増している。そうした状況の中、米国は中国とのデカップリングを志向し、サプライチェーンを日欧米、5アイズの同盟国へと回帰させることで、中国の覇権を阻止しようとしている。それはまた、軍拡に明け暮れる習近平・共産党に対し、同時に軍事技術への転用を阻止することも志向していると思われる。

次は日本企業

村田製作所本社ビル
村田製作所本社ビル

米国は今月、安倍政権が親中に偏り過ぎていることを危惧し、ついには自民党二階幹事長、今井首相主席秘書官を名指しして批判した。こうしたことは新型コロナ報道に明け暮れる日本のメディアには、まったく響かなかったわけだが、他国の、しかも同盟国の政権中枢を名指しで批判するということが、どういう意味なのかまったく考えられずにいる。

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対立関係ならばいさ知らず、こうしたことは例外中の例外であって、事態がいかに切迫しているかの表れではないだろうか。このところポンペオ国務長官を筆頭にトランプ政権の中枢は中国共産党の人権弾圧や人民解放軍の領土拡張主義を厳しく糾弾しているが、それでも一向に声を上げようとしない日本政府に対し、不信感を抱きつつある。

そうした状況の中で、米国は個別企業に直接的に圧力をかけることも十分に考えられ、不穏な動きを匂わせておきながら、安倍政権に具体的な指示をしてくるのが、過去の歴史から見た米国の常道である。

日本企業にはNO.1技術を持った企業が多く、中国の先端技術は日本企業の高度な部品なしには成立し得ないし、半導体や、半導体テスター、フッ化水素やフォトレジスト等補助材料、小型電池、5Gチップセット、セラミックコンデンサ、半導体製造装置、CMOSセンサ、顔認証等々枚挙にいとまがない。

こうした企業群がファーウェイ、ZTE、ハイクビジョンに対し部品供給を行って、新型コロナ禍でも好業績をあげているわけだが、中国企業を潰すには当然日本のサプライチェーンを寸断する必要があると、米国は考えるだろう。実際に米国国務省内では具体的な企業名を挙げてそのような準備が行われているといわれる。

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アドバンテストのS安

30日の1Q決算発表で翌31日に極めて不自然なS安となったアドバンテストに関し、株式市場は「通期の減益予想を嫌気」と分析した。確かに半導体関連は先行した8035東京エレクトロンと比較すると見劣りするものである。しかし、同時に発表した2020年度第1四半期決算説明会資料によれば、

「コロナウイルスによる最終需要減退と米中対立激化を受け、今期は減収減益を予想」

と説明している。特にこの米中対立激化を敢えて持ち出して説明するということは、それなりに要因が生じたということではないか?そしてその情報を察知した海外ロング筋が早期に売り逃げたと考えるのが妥当である。

冒頭の「S安で処分する必要性」ということについて、今後日本市場、特に半導体セクタや電子部品セクタが急落することを見越しての行為と考えれば合点が行くと思う。情報が入れば後は逃げたもの勝ちなのだ。

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要警戒企業(銘柄)

YOUTUBE動画で取りざたされた2社を含め、中国ハイテク5社との取引に大きく依存す企業は、少なくとも国防権限法定期用の動きになれば(事前に情報が洩れた場合も含めて)、大きな影響を受けそうな日本企業を列挙する。

東京エレクトロン(半導体製造装置)

スクリーン(同上)

日立(日立ハイテク)(同上)

半導体製造装置に関しては、日米で世界シェアの80%を握り、日本の競合メーカー大手はアプライド・マテリアルズ(米)、ASML(米)である。もちろん、米系企業は供給できないわけで、となると日本企業は相当の可能性があると考えるべきだ。

アドバンテスト(OSAT:アウトソースド・セミコンダクター・アッセンブリ・アンド・テスト)

競合がひしめくOSAT分野で高度な半導体(CPU、非メモリ、5Gチップセット)テスターを供給している。メモリテスターは過当競争。

アンリツ(通信計測器・5Gチップセット)

世界中数百万か所といわれる携帯基地局建設における通信計測機で大きなシェアを持つだけでなく5Gチップセット分野でも他社をリードしている。ファーウェイは大口顧客。

村田製作所(積層セラミック・コンデンサ、デュプレクサ、セラミック発振子、EMI除去フィルタ)

5Gスマホ用の積層セラミックコンデンサ等電子部品では独壇場。ファーウェイは大口顧客。

TDK(インダクタ、リチウムイオン電池)

小型リチウムイオン電池では大シェア、全個体電池も開発。中国顧客5割以上。

ソニー(CMOSイメージセンサ)

言うまでもなくCMOSセンサーでは5割のシェア。高級機に強い。

こうした観測は現時点では単なる妄想といわれるかもしれないが、状況を見れば明らかに何らかの圧力が米国からかかってもまったく不思議ではない。

現時点で日本市場をけん引しているのは半導体・電子部品だが、ここが崩れるようなことにでもなれば、日経平均¥20,000割れも十分にあり得る。要警戒だ。

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