投資動向が物語るソフトバンクG(孫正義)の危機の本質
- 2019.11.20
- 企業評論
現在株式市場では、ネットやYOUTUBEを通じて9984ソフトバンクGに対する様々な危機説が噴出している。同社の経営は突っ込みどころ満載で、傘下のZHD(YAHOOの持ち株会社)に関してYAHOOとLINEの経営統合を発表したり、SVFで投資したWEWORKの上場破綻に絡んだ対応などがホットな話題だが、米国におけるTモバイルとスプリントの統合問題、傘下のソフトバンクの料金改定問題、米中協議におけるアリババの上場問題、等々どれも問題をはらんでいて、投資するとなるとどこに着目していいのか判断が付かない。
国内第9位の売上規模を誇る大企業に成長し、その事業は多種多様であるソフトバンクG(以下SBG)を、単純に理解し評価することは困難であるのは言うまでもなく、だからこそシンプルに株価や投資動向から判断してもいいのではないか、と思う。
SBGは投資不適格?
まず、海外格付け会社のSBGに対する格付けは、S&P(スタンダード&プアーズ)ではBB+、ムーディーズではBa1となっていて、いずれもジャンク債の格付け(投資リスク大、投資不適格)となっている。
つまりこのことは、海外の長期投資ファンドは絶対に投資しないことを意味する。時折、パフォーマンスに窮したヘッジファンドなどが、「株価割安水準」という名目で短期投資を仕掛けることはあるが、少なくとも昨年、今年はいずれも失敗に終わっている(と思われる)。
その理由は、ネガティブな話題が次々に飛び出してきて、株価を維持することが至難の業だから。その結果、買い上げては短期の利食いを行って撤収せざるを得ないのだ。
同社の孫会長は「株価や格付けに対し評価不足」として大いに不満を持っているが、少なくとも海外の格付けがジャンク級である限り、SBG株に対し優良な投資は行われないということになる。
SBGは孫会長の個人会社?
会社四季報記載のSBGの株主構成(上表)を見ると、海外の優良ファンドの投資はほとんどないことが分かる。筆頭株主は孫会長自身で日本マスター信託口、トラスティ信託口、そして日本TS信託口といずれも金融機関や企業、証券などの国内勢の投資が中心となっている。
これを見る限り、SBGは孫会長の個人会社である。そして信じられないことだが、これだけの資本政策をしている企業で子会社や関連会社との持ち合いもないのは不思議であって、そこに16万人弱の個人投資家が存在すると理解しておきたい。
SBGの経営はすべて孫会長の一声で決められる。この企業に経営上の合議は実質的には存在しない。そのことが、昨今のSBGに対する不信感を増長させている。上場前ベンチャーに投資するSVFの投資判断が、WEWORK問題で大きく揺れているのは、一重に孫会長の投資判断に対する不信感故である。
個人だけが踊る信用買い
2019年4月に1000万株を割れて信用買いが底打ちして以来、同社株価が¥5,000台から徐々に増え始め、米系ヘッジファンド介入のあった7月に株価が吊り上げられ、短期に利食いされて逃げられた辺りから個人投資家の信用買い残は急激に増えた。
そして株価が下落するプロセスで逆張りの個人投資家が一気に同社株に群がり、11月現在では約2600万株にまで膨らんでいる。
こうした傾向は、株式投資で買いを入れる上で極めて憂慮すべきことだ。海外格付けがジャンク級となって海外大口投資家の買いが期待できないうえに、11月に入り日銀のETF買いが止まりつつある状況(ステルス・テーパリング)で、この状況を跳ね返す(戻り売りを吸収する)だけの買い材料が出るかと言えば、米中合意であっても難しいのではないかと思う。
ただし、米中合意によって全面的に世界の投資環境が改善するようであれば、SBGに対する見方も多少は変わるかもしれないが、現時点ではそこまでのインパクトは期待できないと思う。そして、一旦米中部分合意が実現してしまうと、当面は材料出尽くしとなる調整があってしかるべき。
2020年の投資環境は、少なくとも米中合意の思惑がらみの2019年よりも悪化する可能性が高い。そうなると、SBGへの投資はこの株価レベルであっても報われないと見る。
かつて、ライブドア破綻の時の信用買い残の推移を思い出すと、経営者が事業の弱点を隠すために突っ張れば突っ張るほど個人信用買い残が膨れ上がった。その結果、ライブドア株は期待とは裏腹に常に強烈な戻り売り圧力に晒されていて、どうにもならなかった。そしてリーマンブラザースに売り叩きと買い戻しを喰らって、最後を迎えた。
SBG株にはそうしたリスクが存在することは否定できない。
SBG不信は情報開示しないから
既にSBGに関しては、今年の5月、そして10月に記事を書いているが、SBG不安に関してはさらに2016年頃から以前のブログで指摘し続けていた。その理由は、米国スプリント買収から業績のV字回復を果たしたとされる経緯が不自然であったためだった。その後、今年になってSBGの全体像を見る記事になったわけだが、同社に対する不信感は何一つ改善されてはいない。その大きな原因は情報開示がなされないからである。
おそらく今回のWE WORKに関するSBGの介入は、つまりスプリントの再建と同様な手法を使うだろう。つまりある程度組織や事業のスリム化を行った後に負債の飛ばしを行って財務を改善する。必要な物は格安でリースバックして財務を劇的に改善させた上で企業価値を高めてしまうというものだ。
WE COMPANY問題
WE WORKの企業価値は、年初にSBGとゴールドマンサックスが企業価値を5兆円と見積もった。そして、SVF2号ファンドを立ち上げるとぶち上げた1Q決算発表の時には、ゴールドマンサックスはSBG関連の与信を売却してしまい完全に手を引いてしまった。そして上場を申請していたWE COMPANYは、上場中止に追い込まれるとともに、以下の記事がブルームバーグより配信された。
米ブルームバーグ通信などは18日、シェアオフィス大手「ウィーワーク」を展開する米のウィーカンパニーの経営支援を模索しているソフトバンクグループ(SBG)が、ウィーカンパニーの企業価値を80億ドル(約8700億円)以下と見積もっていると報じた。
つまり、ここで言うWE COMPANYの企業価値の約8700億円というのは、あくまでもSBGの試算値だということで、その経営実態は上記表のごとく売り上げに比例して債務が増える「破綻モデル」なのだ。だからこそ、事業縮小以外に当面の策はなく、縮小すれば債務超過が解消できない事態に直面する。
従って現時点でのWE WORK事業は無価値であって、WE COMPANYの企業価値はマイナスであるという事実を投資ファンドとして成立させるためには公表しなければならないはずだ。
有利子負債の実態が不明
SBG全体としての有利子負債は約15兆円以上と言われているが、その中には野村証券を支えていると言われる個人向社債などもある。決算発表では、傘下のソフトバンクやYAHOO、スプリントの利益や持ち株(投資株)の評価益に支えられているわけだが、同等の基準での債務計上はなされていない。
よってSBGの有利子負債の実態が見えてこないという不信感がある。
また、SVFは1号ファンドの募集条件として年率7%を提示していたと、ゴールドマン・サックスの関係者によって公表されているが、10兆円ファンドの7%(約7000億円以上)を毎年支出計上する必要も出てくる。
こうなってくると、如何な9兆円超の売上を誇るSBGであっても、今後も継続して年間2兆円(個人的な試算)にも及ぶ有利子負債相当を負担できるとは、通常ではあり得ない。
投資環境急変で一気に吹っ飛ぶ?
年内に米中部分合意が決着したのち、2020年は実体経済やファンダメンタルズを繁栄した相場に成らざるを得ない。2020年は米国大統領選挙イヤーであって、様々な選挙公約が飛び出すために株式市場は安定する(急落はない)と言われるが、実体経済の悪化の中、無理やり吊り上げてきた相場の反動は必ず出てくるはずだ。
少なくともトランプ大統領の政策で株式市場を上昇させたのは減税だけであって、現在の米国経済の好調はGAFAの継続的な拡大に依存してきた。そのGAFAが従来通りの景気の牽引役とならないのならば、今まで無視してきた悪材料を一通り織り込む必要が出てくる。
間もなく合意締結と言われる米中部分合意は、米国産農産物の交渉が中心で、他の案件が骨抜きになった場合世界経済に対してほとんど意味をなさない。
その時、株式市場では相当な反動も予想され、それがきっかけとなり一気に悪材料を織り込みにかかる可能性もある。そうなると、現在厳しい状況におかれたIPOは、ますます評価が低くなる。
また、年内と言われるサウジアラムコのIPOの影響も無視できない。この上場は、ちょうど日本市場での日本郵政、かんぽ生命、郵貯銀行の上場と似ている。なので基本的にこの世界最大と言われるIPOが芳しくない場合、これをきっかけに株安に火がつく可能性もある。
いずれにしても、ここまで持ち上がった株式相場であるから、急変してもおかしくないしむしろ自然であって、その時、SBGが耐えられるかどうか・・・それが投資をする上で懸念であり問題なのだろう。
(内容は個人的な見解を述べたものであり、風説の流布とうの意図はありません)
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